2018年2月17日土曜日

デスモプレシンの使用有無が低Na血症の予後に関与するか

Outcomes in Severe Hyponatremia Treated With and Without Desmopressin

Am J Med. 2017 Oct 20. pii: S0002-9343(17)31043-4.

Abstract
■BACKGROUND:
重度の低Na血症における過剰補正は浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome, ODS)の発症に関わる.デスモプレシンは低Na血症において,過剰補正を抑えることが出来る.この論文では,デスモプレシン使用の有無(使用法の違い含む)でアウトカムを比較した.
■METHODS:
後ろ向き観察研究,カナダのトロントにおいての2施設で,2004-2014年に低Na血症(<123mEq/L)で入院した全ての患者を対象とした.
プライマリーアウトカムは安全なNaの補正と規定した (24時間以内の補正が≤12 mEq/L,48時間以内の補正が≤18 mEq/L).
■RESULTS:
1450例が対象となった.デスモプレシンは254例(17.5%)に使用された.
デスモプレシンはNaの補正速度を減らしたが,デスモプレシン投与群では安全にNa補正できた患者数が少なかった (174 of 251 [69.3%] vs 970 of 1164 [83.3%]).
この結果はデスモプレシン投与前の過剰補正が大きく影響したと考えられた.
デスモプレシン投与群では,多くがNa補正速度に応じて反応性(reactive strategy)に投与された. (174 of 254 [68.5%]).
1450例中4例がODSを疑われた (0.28%).
交絡因子によると思われるが,デスモプレシン投与群では死亡率が低かった(3.9% vs 9.4%)
Proactive strategyによるデスモプレシン投与により,デスモプレシン投与群のほうが入院期間が長かった.
■CONCLUSIONS:
観察研究だが,これらのデータはODSの平均的なリスク患者において,reactive strategyでのデスモプレシンの使用を支持するものである.
デスモプレシンの低Na血症における更なる試験が必要である.
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低Na血症におけるデスモプレシン使用の論文.
proactive strategyは,来院時のNa濃度に応じて,Naの推移を見る前にデスモプレシンを投与する方法(デスモプレシン投与群の11%).
reactive strategyは,尿量が増えたりNa濃度が増えたらデスモプレシンを投与する方法(デスモプレシン投与群の68.5%).
rescue strategyはNaが補正速度を超えた場合に投与する方法(デスモプレシン投与群の18.1%)
proactive投与って一般的ではないと思いますが・・・.本論文でもreactiveの投与法が多いですね.また,デスモプレシン投与群の方が尿中の浸透圧や尿中Na濃度が低いです.これも自由水排泄が亢進している病態でデスモプレシン使用を検討すると捉えれば,理にかなっていると思います.

デスモプレシン使うと補正速度が抑えられる,というのは当然だと思います.
一方で,rescue strategyで24時間以内での補正が間に合わず過剰補正が多かった結果になっています.
ただし,この論文ではNaフォローがどのタイミングで行われていたのか記載がありません.
2014年に発表されたガイドライン(Eur J Endocrinol. 2014 Feb 25;170(3):G1-47.)では確かエキスパートオピニオンで,最短で4時間のフォローになっており,この頻度でフォローすればそこまで過剰補正にならないと思います.また,4時間も目安であり,過剰補正を懸念するならば例えばA-lineを入れて2時間毎フォローでもいいわけです.なのでrescue群ではNaフォローの間隔が長かったのかな?と思うわけです.
でもrescueでのデスモプレシン使用により,48時間以内の補正速度が適正な例が60%いるので,デスモプレシンの有用性はあります.
なので本論文から積極的にデスモプレシンを使った方がよいとは言えないと思うのですが,過剰補正が予測され,かつ自由水投与に限界がある場合(体液過剰や血糖値を気にする場合など)はデスモプレシン投与を検討する,といったところでしょうか.
今までのプラクティスと大きな流れでは変わらなさそうです.