2017年10月23日月曜日

Clinical Question:腎限局型血管炎(Renal Limited vasculitis; RLV)ではCRP陰性でもいいのか?

今回はClinical Questionとして勉強したことを,あまりインターネット上や論文でひっかからなかったので載せておきます.

Clinical Question:腎限局型血管炎(RLV)ではCRP陰性でもいいのか?

少なくとも1年前の血清クレアチニンは正常域(1.1程度)だった人が,急激なクレアチニン上昇(4.5程度)で紹介受診.CRPは陰性だったのですが,MPO-ANCAが陽性(確か150程度)だったので腎限局型血管炎として治療開始となりました.生検は本人の意向もあり施行出来ず.腎萎縮はそこまで強くなかったと記憶しています.

CRP陰性になる血管炎としては,中枢限局型が代表です.
これは,例えば髄膜炎ではCRP陰性であることも珍しくないので理解しやすかったんですが,では腎限局型では今回のようにCRP陰性が珍しくないのか?という疑問が生まれました.
(ちなみに他のCRP陰性を呈し得る代表例は,超急性期の感染症,漿膜炎や滑膜炎のないSLE,トシリズマブ投与中が挙げられます)

RPGNのガイドラインでは,RPGN早期発見のための指標として,1)尿検査異常,2)腎機能低下, 3)CRPやESR高値を挙げ,1)~3)がある場合,RPGNの疑いとして専門機関への受診を推奨しています.

RLV, GPA, MPAを比較した論文があります.全て腎生検で確定診断した症例に関してです.(Kidney Int. 2002 Jan;61(1):80-9.)
残念ながらCRPに関する記載はなかったですが,どうやらRLVではMPO-ANCA陽性例が多いようです.

成人例は見つからなかったのですが,子ども(7-14歳)の6症例では,下記のような結果になっています.これも全員腎生検で確定診断しています.
(Clin Nephrol. 2013 Nov;80(5):388-94.)

発熱のない症例が2つ,CRP陰性の症例が1つ,という報告です.
ただCRP陰性例でもESRは上昇しています.

成人例でのケースレポートが見つからなかったのですが,どうやらCRPは陰性でも否定できず,ESRは参考になりそうです.
炎症によらず,MPO-ANCA陽性で急速な腎機能悪化を認める場合は,RLVとして対応する,ということになるか.

誰か成人例のケースシリーズとかレビューとか知っている人がいたら教えてくれれば嬉しいです.

2017年10月2日月曜日

血尿の改善がIgA腎症の腎予後を改善する

Remission of Hematuria Improves Renal Survival in IgA Nephropathy

J Am Soc Nephrol. 2017 Oct;28(10):3089-3099. 

■ABSTRACT
血尿はIgA腎症で主な症状であるが,病勢の進行において血尿の影響はあまり調べられていない.112人のIgA腎症患者を,14±10.2年フォローし,尿所見などを経時的に記録した.
血尿の他には,蛋白尿(0.75g/day以下とそれより上)も分類した.
ESRDもしくは腎機能の50%の低下は,血尿が持続している群で有意に多かった (30.4% and 37.0% versus 10.6% and 15.2%, respectively; P=0.01).
多変量解析では,血尿,蛋白尿,ベースラインの腎機能,尿細間質の線維化がそれぞれ独立したESRD進行への予測因子だった.
血尿が消失した患者では,腎機能の低下する程度も改善した.(-6.45±14.66→-0.18±2.56 ml/min per 1.73 m2 per year (P=0.001))
蛋白尿0.75g/day以上の患者は,それ以下の患者と比較して,腎予後は悪かった.
更に,血尿と蛋白尿(0.75g/day以上),両方ある群では,その他の3郡と比べて有意に腎予後は悪かった.
結論として,血尿の消失はIgA腎症において良好な効果があるだろう.
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IgA腎症の治療で大事なのは血圧と蛋白尿の管理であり,RAS系阻害薬の有効性は支持されています.STOP-IgAN studyやTESTING studyではステロイドや他の免疫抑制剤の有効性を示せていません(こちらも参照,ただし腎機能が急激に悪くなる場合は,やむなしと思います)

本論文ではpersistent hematuriaを24.7 [13–71] RBC per hpfとし,negative or minimalを0.2 [0–3.1] red blood cells per high-power fieldとしている.
そして経過中施行された治療も特に有意差は認めず.
ただ,蛋白尿>0.75g/dayと血尿がある群で,更に免疫抑制剤で治療した群としなかった群で分けたとき,免疫抑制剤で治療した群のほうが腎機能の悪化が少ない傾向があった,とのこと.ステロイド+MMFの治療が多いことが影響しているのだろうか?
同時に載っていたeditorial(J Am Soc Nephrol. 2017 Oct;28(10):2831-2834.)にもあるが,今後蛋白尿がコントロールされているのは前提として,血尿に対しての介入を比較するstudyが登場するかもしれない.

ちなみに扁摘パルスも期待されてた有効性が示せてない(ということで日本と違ってKDIGOでの推奨は基本的にない)ですが,個人的な経験で,扁摘パルスして血尿が消失した症例が珍しくないんですけど,血尿が強いとかそういうのには効くかもしれないってことなんでしょうか.

奥が深い.