2018年8月28日火曜日

【Pro and Con(賛成と反対)】慢性腎不全における食事療法

【Pro and Con(賛成と反対)】慢性腎不全における食事療法

Pro: The rationale for dietary therapy for patients with advanced chronic kidney disease

Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 33, Issue 3, 1 March 2018, Pages 373–378,

■Abstract(抜粋)
食事療法は腎代替療法に近づいているCKD患者に多くの利益をもたらす.
これらの利益の多くは,食事がCKD進行を遅らせるかどうかとは独立している.
食事療法は低蛋白質,ミネラル,そして適切なエネルギー摂取である.
食事療法により,潜在的に毒性をもつ代謝産物の蓄積が減り,体内水分,塩分,カリウム,リン,カルシウムなどの多くのミネラルバランスが健康に保たれ,栄養障害(protein-energy wasting;PEW)を防ぎ,改善するだろう.
また,食事療法により安全に腎代替療法の開始を遅らせることが出来るだろう.
透析開始に関するCKD患者の不安は,食事療法を受け入れ順守させることが出来るかもしれない.

Con: The role of diet for people with advanced Stage 5 CKD

Nephrology Dialysis Transplantation, Volume 33, Issue 3, 1 March 2018, Pages 380–384,

■Abstract(抜粋)
数十年にわたりCKD患者において蛋白制限が行われているが,それは未だ議論のあるものであり,臨床における適応においては多様である.
利用できるエビデンスのバランスに基づき,様々なエキスパートが蛋白制限を論じている.一番大きなRCTはthe Modification of Diet in Renal Disease studyである.
多くの解析があるが,主要評価項目であるGFRの低下については利益を示すことが出来なかった.多くの研究やメタアナリシスに批判があり,それは出版バイアスだったり,代替エンドポイントだったり,疑陽性を生じるものだったりする.
また,以前の論文で認めた利益が,現在の標準治療(RAA系阻害薬による血圧管理など)を受けているCKD患者でも認めるかは不透明である.
このように,低蛋白食がCKDの進行を抑えるかは分かっていない.
日常診療で食事療法を適応するかは重大な疑問が存在している.慎重に研究対象の患者を選んだとしても,食事療法の順守は低い.
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食事療法に対するpro,conがあったので紹介.
今年出版されたCKD 2018 guidelineでも蛋白制限の有用性に言及はあるものの,画一的な指導は不適切,としています.
個人的にはconの立場ですが,proの内容を読んでみて興味深いなと思ったのは,動物性蛋白よりもナッツなどの植物由来がいいのでは,という言及がされていたことです.
カリウム,リンの問題でなかなか難しい面もあるとは思いますが,そういう見方もあるのだなと思いました.
必要なら栄養指導もいいですが,その前に適切な血圧管理(蛋白尿出てるならRAA系阻害薬をしっかり使う)をすることや,喫煙指導のほうがメリットがあるかな,と思います.

2018年8月20日月曜日

腹膜透析と血液透析で認知機能に差が出るのか?

Peritoneal dialysis is associated with better cognitive function than hemodialysis over a one-year course.

Kidney Int. 2018 Feb;93(2):430-438. 

Abstract(一部)
末期腎不全患者の認知機能低下は複雑な内服,食事療法,医学的な意思決定に影響を及ぼす.腎機能が低下するにつれ認知機能も低下する傾向にあるが,透析の開始で認知機能の改善を得たり,腎移植によって回復することさえ認める.
しかしながら,治療法の違いによる認知機能の変化はほとんど知られていない.
我々は,1年間の認知機能を,腹膜透析(以下PD)と血液透析(以下HD)で比較した.
Trail Making Test-Bとd2-Revision-Testを用いて評価し,また,Kidney Disease Quality of Life Short Form Cognitive Function-subscaleを患者が記入した.
271名が組み込まれ,ベースラインと1年後を評価した.
HD患者96名,PD患者101名を,propensity scoreを用い,年齢,併存疾患,教育,雇用状況で調整した.
PD患者はHD患者よりもベースライン,1年後共に良い結果であったが,群間の比較は困難であった.また,HD患者ではPD患者よりも脱落が多く,バイアスがかかる可能性があり一般化は難しい.
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PDとHDで認知機能障害に差が出るのか調べた論文.
自分の翻訳能力の無さにびっくりしつつ,この論文で示されたことはPD,HDで単純に比較はできない事,1年間では差が出ない事,といったところ.
分かりやすいのはこの図です.
一番左は低いほど良好で,右2つは高いほど良好です.
一番右のKDQOL-CFが問診票を使ったやつなんですが,PD患者では低い傾向です.
まぁ臨床的に有意な差かどうか一年くらいではなんとも言えないですし,PD患者のほうがベースラインの認知機能がよいので認知機能の低下を実感しやすい(今まで出来てたものが出来なくなった実感が大きい)というのはあるかもしれません.

さて,この論文に対するcommentaryも出ています(Kidney International (2018) 93, 306–308;)
こちらも脱落の多さ,フォローアップ期間の短さは問題点に挙げています.
同時にstudyの難しさについて言及されています.

こういう分野は良質なエビデンスの構築が難しいですね.

2018年8月13日月曜日

エボカルセト(オルケディア®)はシナカルセト(レグパラ®)に対して効果は非劣勢.消化器系の副作用を減らす傾向.

Head-to-head comparison of the new calcimimetic agent evocalcet with cinacalcet in Japanese hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism

kidney international 2018 Articles in Press

■abstract
二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)は,心血管の石灰化を引き起こし,CKD患者の生存率や生活の質に影響を及ぼす.シナカルセトはSHPTの管理に用いられるが,副作用として消化器症状を引き起こし,内服アドヒアランスの低下の原因となる.それゆえに,より消化器症状の少ないカルシウム受容体作動薬が求められていた.
本論文はphase3,ランダム化,二重盲検化,ダブルダミー法を用いてシナカルセトとエボカルセトの効果と安全性を比較した.
SHPTの日本人透析患者をエボカルセト317人,シナカルセト317人にランダム化し,30週フォローした.
主要有効性評価項目は,28-30週でのPTH 60-240pg/ml達成でエボカルセトのシナカルセトに対する非劣勢(非劣勢マージンは−15%, per protocol set analyses).
エボカルセトでは72.7%,シナカルセトでは76.7%の患者が目標PTHに達した(between-group difference: −4.0% [95% confidence interval −11.4%, 3.5%], for non-inferiority).
消化器系の副作用発生はエボカルセト18.6%,シナカルセト32.8%であった.(between-group difference: −14.2% [−20.9%, −7.5%], significant for superiority).
以上より,エボカルセトのシナカルセトに対する目標PTHへの達成の非劣勢,ならびに,より消化器症状が少ないことが示された.
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透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療薬の比較.
シナカルセトが登場してから手術の症例がかなり減った,というのは経験のある医師に教わりました.そんなシナカルセトは消化器症状が副作用として出やすいということがありますが,新治療薬であるエボカルセトは消化器症状を減らす,という結果になりました.
あくまで主要有効性評価項目はPTH値に対する非劣勢であって,副作用の評価ではないということは留意すべきだとは思いますが,シナルセトは消化器系の副作用を訴える事も多く,その場合の選択肢になりそうです.
ただし,消化器系の副作用として複合されていますが,それぞれをみると明らかに差があったのは嘔気と腹部違和感の2項目で,嘔吐・食欲低下・腹満感についてはエボカルセトが好ましい傾向であるものの,明らかな差は示せていません.
このあたりは留意したほうがよさそうですね.