2017年7月3日月曜日

透析患者におけるアピキサバン(エリキュース®)の薬物動態

Apixaban Pharmacokinetics at Steady State in Hemodialysis Patients

J Am Soc Nephrol 28: 2241–2248, 2017

■ABSTRACT
末期腎不全患者(ESRD)において,心房細動(Af)の治療でワーファリンを使うことが有用か有害かはよく分かっていない.他の抗凝固薬は使えないかどうかが疑問として出てくる.私たちは維持血液透析患者(HD)においてアピキサバンの薬物動態を調べることにした.
7人のHD患者において,8日間,アピキサバン2.5mg1日2回(5mg/day)を投与し,アピキサバンの血中濃度をday1とday8(非透析日)で調べた.
2.5mg1日2回投与では,有意な血中濃度の上昇を認めた.
投与後24時間で,The area under the concentration-time curveは628→2054ng h/ml(P,0.001)へと上昇した.
トラフ値は45→132ng/ml(P,0.001)へ上昇した.
9日目にアピキサバン2.5mg内服後,透析中の血中濃度を調べ,4%が透析で除去された.
5日間の休薬を行い,5人の患者にアピキサバン5mg1日2回(10mg/day)を同様に内服させた.The area under the concentration-time curveは更に6045ng h/mlまで上昇し(P=0.03),トラフ値は218ng/ml(P=0.03)で,腎機能正常者の90パーセンタイルを超えた.
アピキサバン2.5mg1日2回は透析患者において,腎機能正常での5mg1日2回内服と匹敵する結果であり,また,透析患者におけるワーファリンの代替薬になり得る.
アピキサバン5mg1日2回は透析患者においては治療域を超えるので避けるべきである.
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透析患者におけるアピキサバンの薬物動態に関する研究.
結論から言うと症例数も少ないし,死亡率と副作用も分からないのでアピキサバンを投与する理由に全くならないけれども,今後の研究課題には出来そうですね.

少しAf合併の透析患者について振り返ってみると・・・.

まず,各種ガイドラインの記載は下記のとおり.
・ 日本循環器学会(2013年発行)の「心房細動治療のガイドライン」には明確な記載なし
・ 日本透析学会(2011年発行)の「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」では「心房細動に対する安易なワルファリン治療は行わないことが望ましいが,ワルファリン治療が有益と判断した場合には PT-INR<2.0 に維持する(2C)」と記載あり
・ American Heart Association(AHA, 2014年)の「2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation」では,「For patients with nonvalvular AF with a CHA2DS2-VASc score of 2 or greater and who have end-stage chronic kidney disease (CKD) (creatinine clearance <15 mL/min) or are on hemodialysis, it is reasonable to prescribe warfarin (INR 2.0 to 3.0) for oral anticoagulation (82). (Level of Evidence: B)」,「The direct thrombin inhibitor dabigatran and the factor Xa inhibitor rivaroxaban are not recommended in patients with AF and end-stage CKD or on dialysis because of the lack of evidence from clinical trials regarding the balance of risks and benefits (74–76,84–86). (Level of Evidence: C)」と記載あり.(*ただし出血リスクと相談,とも記載あり)

日本透析学会のガイドラインではワーファリンは原則禁忌となっている.しかし,場合によっては使用も考慮し出血リスクとの兼ね合いだという記載があり,なんとも言い難い.そして,INR<2の推奨も,エビデンスレベルとしては高くない.

上記のように,透析患者において,Af合併例で抗凝固すべきかどうかの一定の見解はない.ワーファリンが死亡率を減らさなかったという報告もある(Open Heart 3:e000441, 2016)し,むしろワーファリンの作用機序(Calciphylaxisの誘発)を考えると好ましくないのではないかという意見すらある(Europace (2010) 12 (12): 1666-1672.)

そうした中での今回の研究.ワーファリンの効果が分かってないなら他の薬剤は使えないのか?という趣旨の様子.
アピキサバン2.5mg1日2回で血中濃度としては保たれているという結果.現時点(2017年7月現在)では透析患者に使えるNOAC(最近はDOACとも)はないが,今後はこういった研究も増えていきそう.

今のところAf合併のHD患者では,ワーファリンしか選択肢がない上,至適INRは不明(おそらくINR<2が安全だとは思うけど症例による)なので,HAS-BLED scoreなどで出血リスクを評価しリスク・ベネフィットに応じて投与,といったところか.

2018/08/30追記
腎機能低下(透析含む)のDOACについてはこちらもご参照ください.

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