2017年6月20日火曜日

造影剤腎症のリスクのある成人に対して予防的輸液は不要か

Prophylactic hydration to protect renal function from intravascular iodinated contrast material in patients at high risk of contrast-induced nephropathy (AMACING): a prospective, randomised, phase 3, controlled, open-label, non-inferiority trial.

Lancet. 2017 Apr 1;389(10076):1312-1322.

Abstract(一部)
■BACKGROUND
生理食塩水の点滴は,造影剤腎症の予防においてガイドラインでも推奨されている.
しかしながら,臨床的な効果や費用対効果が,予防しない群と適切に比較し評価されているとは言えない.これらを評価する目的でAMCING trialを行った.
■METHODS
ランダム化前向き試験,オープンラベルであり,造影剤腎症の高リスクがある患者群での非劣勢を評価する.
18歳以上の造影剤が必要になる成人をランダム(1:1)に生理食塩水を投与する群と予防しない群に分けた.
eGFRが30未満の人,過去に透析を受けたことがある人などは除外した.
プライマリーアウトカムは造影剤使用後2-6日以内造影剤腎症の発症(ベースラインからCrが25%もしくは44μmol/L(0.5mg/dl)以上上昇)とし,また,予防しない場合との費用対効果も比較した.
Crの測定は造影剤投与直前,2-6日,そして26-35日後に行った.
intention-to-treatで行い,非劣勢マージンは2.1%とし,ClinicalTrials.govにも登録した.
■FINDINGS
2014年6月17日~2016年7月17日の期間で,660人が割り振られた.予防なしが332人,生理食塩水投与群が328人だった.2-6日のクレアチニンが評価出来たのは予防なしで92%,生理食塩水投与群で90%だった.造影剤腎症の発症は予防なしで2.6%,
生理食塩水投与群で2.7%で有意差はなかった.予防しない方がコストは抑えられた.35日の時点で透析になった人や死亡はいなかった.
■INTERPRETATION
予防なしでも,生理食塩水を投与した群と比較して,造影剤腎症の発症については非劣勢であり,コストは抑えられた.
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造影剤腎症の予防が必要かどうか評価した論文.
高リスク群として,
・ eGFR 45-59の場合は糖尿病もしくは,2つ以上のリスク( 年齢>75歳以上,貧血,心血管病の既往,NSAIDsもしくは利尿剤使用の使用)
・ eGFR 30-45
・ 多発性骨髄腫もしくはsmall chain proteinuriaを伴うリンパ形質細胞性リンパ腫
上記のいずれかと定義している.
eGFR 30未満が除外されていることには要注意.

また,本論文では入院患者が生理食塩水投与群9%,予防なしで8%と低い.
除外項目として救急で処置が必要な人やICU入室の人も除外されており,重症患者は考慮されていない可能性がある(そもそも重症なら造影剤腎症のリスクにかかわらず造影するよね,っていう指摘はごもっとも.)
また,BMIが共に28程度にも関わらず,造影剤の使用量の平均は共に90ml前後と少ない.日本の造影剤腎症のガイドラインでも引用されている報告(Clin J Am Soc Nephrol. 2008 Sep;3(5):1274-81.)では,100ml以下で造影剤腎症の発生頻度が低かったとしており,本研究では,そもそも造影剤腎症を起こしにくいセッティングだった可能性がある.(Lancetの論文は低浸透圧造影剤で,Clin J Am Soc Nephrolの論文は等浸透圧~低浸透圧だが,そもそも低浸透圧が等浸透圧に比べて明らかに優れているかどうかは明確な答えがない)

上記を考えると,eGFR 30以上の場合,造影剤の量が少量で済むなら予防は必要ないのかもしれない,と考えられると思う.
ただ,完全に個人的な印象として,造影CTならばeGFR 40以上あれば,特に予防しなくても大丈夫な印象です.

2017.07.31追記
Lancetにこの論文に関するCorrespondenceも出ています.
こちらの記事に参照.

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